EPILOGUE-SCIENCE, SCIENCE! リオンを支える、理科好きなスタッフたち。この連載では毎回、理科にこだわりを持つスタッフが物理や地学、化学などへの偏愛ぶりを語る。第一回目は「可逆」と「不可逆」について。理科好きなもので。リオンスタッフのこだわりコラム覆水は盆に返るのか? 20数年前、大学の講義で聞いて以来、興味を持ち、今でもたまにふと考える定理があります。それは、宇宙には「可逆」と「不可逆」のものがあるということです。ことわざには「覆水盆に返らず」というものがありますが、これは正しいか否かという問題にもなってきます。※ ※ 実は力学的に見ると、世の中の物理現象はもとに戻せるということになります。ある運動が可能なら、時間反転した運動も必ず可能ということ。力学の基本法則に「時間の向き」はないというのです。たとえば宇宙空間をさまよっているように見える無数の星ですが、これらはどのように移動しているかが数式で判明しています。何十年、何千万年もの間、移動を続けている太陽系の惑星を想像してみます。これを時間反転するとどうなるか。軌道の計算式が分かっているのならば、10年前に遡って計算してみればいい。そうすれば10年前の状態を知らずとも、計算式によって10年前の状態が割り出せるということになります。時間反転対称性といって時間を逆向きに変換させると元の状態に戻せる事象がある。つまり時間の矢印の向きを変えてやれば目の前の事象は可逆であるということ。ニュートンの運動方程式が、時間と空間の反転に対して不変であるという性質と同じことですね。※ ※ でも、このような力学に従う事象とそうでない事象があるのは誰でも知っていることと思います。新幹線が線路の上を走っている様子を想像してみます。ブレーキがかかると新幹線は止まります。止まる時には、ブレーキによって機械と機械、新幹線とレールが摩擦し、熱に変換されています。では新幹線が止まった状態でレールやブレーキ部分にいくら熱を加えても、冷やしても、新幹線は動き出しません。力が熱に変換されてしまっている場合はこのように不可逆な事象となるのです。運動は100%、熱に変わることがあっても、熱を100%、運動に変えることはできないわけです。※ ※ 私が大学の講義で興味を持ったのはこうした「可逆」「不可逆」に関わる「エーレンフェストの壺」と呼ばれるストーリーです。まず2つの壺があり、 1, 2, 3, 4, ... , Mと番号のついた球をそれぞれに適当に入れていきます。そして球に書いた番号と符合するカードを1, 2, 3, 4, ... , Mと同じように用意し、束にします。準備はこれで終わり。あとはカードを束のなかからランダムに一枚ずつひいていきます。たとえばカードに書いてある番号が3なら、3と書かれた球がどちらの壺にあるか確認し、左の壺にあるなら右の壺へ移動させます。次にひいたカードが1なら、1と書かれた球が右の壺にあればこれを左の壺に移動します。つまりランダムに、球を左右に入れ替えていくという作業をどんどん続けていくのです。一度ひいたカードはまたもとの束に戻すので、3や1といった一度ひいたカードが何度も登場する可能性があります。この動きをよく考えてみると「時間を反転しても変わらない」ルールだと捉えることができます。言い換えれば、時間の向きがないルールなのです。 では、左側の壺にすべてのボールを入れた状態でこのルールに従って、ボールを移動し続けてみます。当然、初めは右の壺にはボールが0個です。作業を続けていけばボールは右の壺へ移ったり、左の壺へ移ったりと、左右の壺にあるボール数は変化していきます。カードをひく回数、つまりnが5の時はどうなるでしょう。ひょっとすると何回か行った後、偶然、元の状態である左の壺に5個のボール、右の壺には何もない状態に戻るかもしれません。一方、nが1000、1万、1億、1兆となった場合はどうでしょう。面白いことにボールの個数が増えていくにつれ、元の状態に戻ることはほぼ、なくなってきます。ちょっとおかしいですよね。nが5の時は可逆であると思われたのに、nの数が増えると不可逆性が現れたのです。「覆水盆に返らず」です。※ ※ 実はこれ、nが大きな値の時、左右のボールの数はほぼn/2に近づいて安定する、という事象です。たとえばn=1000個なら、いくらボールの移動をランダムに繰り返し続けても左に500、右に500と、ほぼ均等な状態で安定してくるということ。これは時間的に、片方の壺にしかボールが入っていない偏った状態から、左右の壺のボールの数が同じになる均等な状態に向かうという時間の向き、不可逆な状態が生まれたことになります。理論上、スタートの状態である左に1000、右に0の状態になることもあるのですが、それには2のn乗程度の移動回数が必要だというのです。スタートの状態に戻るには、nが1000であれば1秒間に10の12乗回ボールを動かしても10の281乗年かかるという計算になるのです。nが大きくなれば、実質的には不可逆なふるまいが現れるというストーリーです。理屈はシンプルで、左右ほぼ均等な状態になるパターンには何通りもあるが、左に全部のボール、右に0という状態は1通りである、ということ。見方を変えれば、左にボールが全部あるというのは特殊な状況であり、左右ほぼ500ずつ(合計1000個のボールの場合)というのはありふれた状態。特殊な状況からありふれた状況に移行しやすく、ありふれた状況から特殊な状況へ移行するのはとてもレアというか、自然に起きるにはとてつもない時間がかかるということでもあります。※ ※ 私はこの「エーレンフェストの壺」があらためて興味深いなと感じています。私の仕事の軸足は、技術開発であり、世の中の事象を見て、ある条件の下で可逆なものは何かを探ること。そして可逆であればどんな力を与えれば元の状態に戻るかを知り、これを実現していくことがリオンの仕事であると思っています。たとえば様々な音が鳴っている空間で目標とする音だけを抽出しようとする行いは、言わば、もともとひとつの音だった状態に時間を戻していく、可逆性を証明していくということでもあります。可逆か不可逆かを考えるのは難しくもあり、非常に面白いことだとつくづく思うのです。中島 康貴技術開発センター R&D室 新ビジネス開発グループ所属。入社後、騒音計、周波数分析器、データレコーダ、航空機騒音監視システム、マイクロホンアレイなどの開発に携わる。2019年よりR&D室に所属し、技術視点でのマーケティング、新ビジネス開拓に注力。001「エーレンフェストの壺」不可逆性のふしぎポール・エーレンフェスト1880年生まれ。オーストリア出身の物理学者。アインシュタインやボーアらとも交流があり、相転移の理論、エーレンフェストの定理など、統計力学と量子力学の関係性についての功績で知られる。417236851, 2, ... , と番号を付けた球を、2つの壺にいれる不可逆性の本質エーレンフェストの壺偏った状態は1通り均等な状態には無数の組み合わせがあるごく少数の「偏った状態」から、膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていくごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、ごく少数の「偏った状態」から、膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく膨大な数の「均等な状態」へ自然に移っていく2002000400060008000100004006008001000M20
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