RION Techinical Journal Vol.2
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装備したいというご相談を受けることがこれまでもしばしばありました。そのような場合、機器だけでなく、校正に適した無響室、無響箱も並行して考慮しなければなりません。そこでリオンでは、システムを販売するだけではなく、無響室などの設計からRACSの納入、技術指導、運用開始後のサポートまでをトータルで提供することにしました。顧客の要望に応じて、JISやIEC規格に適合するシステム導入をトータルでサポートすること。これがRACSの本質です」 RACSそのものの革新性に目を向けてみれば、そのひとつに挙げられるのが音響カプラだ。騒音計やマイクロホンの音響校正手法として、主に無響室法とカプラ法がある。無響室は高精度な校正が可能であるが、無響室の導入には相応のコストがかかるため、補正量を用いて簡便に校正可能なカプラも良く用いられる。「つまり校正において、無響室、音響カプラ、双方のニーズがあるのですが、従来のシステムではどちらかを選択するか、2つのシステムを導入しなくてはなりませんでした。しかし、RACSはこのシステムひとつで無響室、音響カプラの両方をコントロールできるので、システム構成の自由度が格段に高くなります。この特徴はRACSのアドバンテージのひとつですね。加えて、リオンの騒音計に関しては事前に必要なパラメータがセットされているので45分程度で自動計測が可能です。従来の校正システムであれば約3倍以上の時間を要していたはずです」RACSが果たす社会的な役割 海外での営業活動に日々、注力する細井。このRACSが海外のどのような場で社会に貢献するのか、また、一般消費者にはRACSによってどのようなメリットがもたらされるのかについて、こう話した。「国際的な規格や基準で騒音計などの機器を管理したいというニーズは、主に各国政府機関など公的組織において生じるものです。各国では一次標準とされる校正システムとそれに準ずる二次校正システムが存在するのが一般的です。例えば、欧米ではこうしたシステムが整っているため、RACSのニーズはそれほど高くありません。ですからRACSは、一次校正システムが整備されつつあるが、二次校正システムがまだ行き届いてないベトナム、マレーシア、タイなどの東南アジアで多くのニーズがあると考えています。こうした国々にRACSが浸透すれば、騒音などで劣悪な住環境をより快適な空間にしていくための支援となるでしょう。また別の視点で見ると、自動車や家電製品の業界では世界的により高品質な商品が求められ、騒音計などの機器を精密に管理することが企業の地位向上につながるのだろうと考えています。さらに、業界の労働環境は日頃、騒音や振動にさらされ続けていることが多いため、騒音計、振動計を用いた精密な管理によって労働環境改善や労働者の健康維持が高レベルで実現できるのだろうと思います」RACSの心臓部を作ったプログラマの気骨 RACSの開発においてソフトウェアの構築は当然重要な要素のひとつだった。このソフトウェア開発を指揮したのが環境機器事業部製造技術部の船木潤一だった。一人で担ったRACSのソフトウェア開発を船木はこう振り返る。「それまでは、手動で騒音計やマイクロホンを測定していましたが、すべて自動で行えるようになりました。つまり、オペレータが測定開始ボタンを押してから測定終了までのプロセスがシンプルなのが大きな特徴です。そして様々な機器をRACSでは一括して測定できるという点も大きなポイントですね。こう話すと簡単に聞こえますがハードウェア、ソフトウェア合わせて、開発から完成には5年間かかっています」 基本的には騒音計と通信しながら測定値を取得するだけ、と飄々とした表情で語る船木。本来なら複数のプログラマでやっとこなせる作業を一人でこなしたことを、こう自己分析した。RACSの測定結果表示画面プログラミングを担当した船木が設計した測定結果表示画面。グラフに用いるカラーリングなどに船木の好みが反映されているという。RACSのシステム構成例このような機器群が一つのシステムとして構成されることで、RACSの機能が発揮される。JCSS 認定事業者として培った知見を活かし、IEC規格に準拠した本校正システムを一体化したサービスとしてタイとマレーシアへ納入。この業績は音響振動分野における計測技術を世界的に示すという成果をリオンにもたらした。3船木 潤一環境機器事業部 製造技術部 S&Vエンジニアリング課所属。補聴器のフィッティングソフト開発に関わった後、現部署で幅広くプログラミングを担当。RACS開発ではソフトウェア開発において中心的役割を果たす。

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