騒音計と音響カプラカプラには騒音計をこのように装着する。騒音計を挿入する向きに関係なく正確に校正できる点がRACSの技術的アドバンテージのひとつだ。森川BOX森川が個人的に使用する秘密道具を収めたボックス。粘土をはじめフェルト、緩衝材などの素材が詰め込まれている。公開特許音響カプラのベースとなったカプラ内部構造(特許6420014)カプラ内部の構造案森川が対称性、堅牢性を追求した結果、このような複雑な形状の部品が出来上がった。「数十種類の機器それぞれに最適なプログラムを作っていくのは骨の折れる作業です。まあ大変だったといえば大変でしたが、坂道を少しずつ登っていくしかないという感じでしたね。プログラムとはそういうものですから」 職人特有の雰囲気を漂わせながら船木は言う。自らが経験した苦労を決してオーバーに話すことのなかった船木だが、さらに聞いていくと作業上、低くなかったハードルが幾つも見えてくる。「今から考えると、ここまでたどり着くのは本当に長い道のりで、いつも苦労ばかりでした。苦労といえば最も高いハードルはどのタイミングで測定するかという部分でしたね」 騒音計など管理対象の機器と接続し、その管理対象の機器の性能が正常であるかを測るにはいつどの瞬間でも良いというわけにはいかない。なぜならその一瞬、測定しただけではほんのわずかなノイズで規格から外れてしまうケースや、逆に管理対象が正常ではないのにたまたま正常な数値を測定してしまう偶然のケースがあるからだ。つまりどんな時でも管理対象の機器が正常か否かを測るための工夫が必要だった。そこで船木は試行錯誤を重ね、たどり着いた結果が「ウェイトを入れる」ということだった。ウェイト、すなわち計測における待ち時間を設けることで、管理対象の機器が正常か否かを測る方法を生み出したのだ。「手動で測定するのであれば、オペレータが『あれ、ちゃんと測れていないな』と気が付いた時には、測定し直せばいい。でも自動測定の場合には、測定のタイミングによっては正しい値が得られないことがあるんです。そこでプログラム上、計測に待ち時間を設けることで、管理対象機器が測定する値を正しくすることができるだろうと思いついた。従来は、職人の勘で行っていた『おかしいな』と感じて修正していた作業をソフトウェアで実現することができた、とでも言うのでしょうか。長い開発時間で最も大きなポイントですね」測定の信頼性を担保するカプラの開発 プログラミングと並行して進められ、大きな課題を抱えながらもゴールに行き着いたのが音響カプラの開発だった。カプラとは測定したい騒音計やマイクロホンなどの機器とRACSを接続するためのソケット状のパーツ。RACS開発の初期段階では音響カプラに大きな問題があった。そこで前任者からカプラ完成の業務を託されたのが技術開発センターの森川昌登だった。「測定には『不確かさ』というものがあります。簡単には、実際の測定では本来得たい値からずれたり、ばらつくことを言います。理論上は1 dBずれたのであれば後で1 dB引き算する、補正すれば本来得たい値になる。ところがその本来得たい値が分からないため、ずれの値が分からず、補正することができません。このような不確かさの要因として代表的なのが『繰返し測定の再現性』となるのですが、測定の不確かさにおいてこの繰り返し再現性の比重が大きければ大きいほど、音響カプラの信頼度が下がってしまう。この繰り返し再現性に関する不確かさをどう低減するかが校正システムの成否に大きく影響します。これを新たな音響カプラで解決するという課題に取り組みました」 RACSで騒音計やマイクロホンなどの管理対象の機器を測定する際には、騒音計試作カプラ複数ある試作カプラのうちの1つ。これらの試作カプラの設計・検証を経て、左の図のような構造にたどり着いた。4森川 昌登技術開発センター 要素技術開発室 音響・振動センサ開発グループ所属。音響振動計測器関連のマイクロホン開発や音響校正器の開発などに従事。RACS開発においては新開発の音響カプラ設計・製造において中心的役割を担った。
元のページ ../index.html#6