RION Techinical Journal Vol.3
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 聞こえが気になった際には、まず耳鼻咽喉科での診察が推奨されている。しかし、難聴の自覚のない人が、耳鼻咽喉科に診察を受けに行くはずもない。厚生労働省が策定した新オレンジプランの中で、難聴が認知症の危険因子のひとつとして挙げられており、超高齢社会に突入した日本では、もはや一刻の猶予も許されない。「どうすれば難聴の兆しに気づいてもらえるのか。そう考えたときに浮かんだのが、スポーツセンターなどに設置してある血圧計でした。あれと同じように、一人で気軽に聴力をチェックできる機器があれば、少しは状況が変わるはずです」と、佐藤香織は語る。“聴力の衰えに気づいてもらいたい” 人口における高齢化率の上昇に伴い、日本では難聴者が増えている。ところが難聴を自覚していながら、実際に耳鼻咽喉科に足を運ぶ人は10人中4人にとどまる。その結果、補聴器の装用率も主要先進国の中では日本が飛び抜けて低い。「そもそも難聴の自覚すらなく、聴力低下に陥っている人が多数いると思われます。こうした難聴予備軍というべき人たちに、聴力の衰えに気づいてもらいたい。この願いがスタートでした」と、中市健志は「聞こえチェッカー」の開発コンセプトから語り始めた。年齢による聴力平均値のパターン*グラフは、男女、年齢別による聴力平均値を示したもの。日本全国で約1万人を対象とした調査結果を示している。簡単・気軽、一人でできる聴力測定 できれば遊び感覚で聴力をチェックしてもらえれば理想的だ。そのためには、どのような仕組みが望ましいか。 耳鼻咽喉科で行う聴力検査では、音を少しずつ大きくしながら、音が聞こえたらボタンを押す。この作業を繰り返し、聞こえる音の中で最も小さなレベルが聴力閾値となる。「聴力検査と同じプロセスを、簡単に楽しみながら、それこそゲーム感覚で試してもらいたい。実際に様々な操作画面を試しながら、聴力のチェックとしてとっつきやすい形に仕上げていきました」と、佐藤は説明する。 高齢者に「ちょっと試してみようか」と思ってもらうには、可能な限り使いやすくする必要がある。文字を大きく表示して操作は単純に、やってみてなんとなく楽しい、そんなイメージも重視された。検討を重ねた結果、音が聞こえれば「はい」、聞こえなければ「いいえ」ボタンを押して聴力をチェックし、現在の聞こえ年齢別の平均聴力を利用した「聞こえチェッカー」で聞こえ年齢を判定技術開発、最前線!IN THE BACKYARD難聴自覚者の補聴器普及率は14.4%にとどまったままだ。こうした状況を改善するため、いち早く難聴に気づくためのツール「聞こえチェッカー」の開発に、リオンは取り組んでいる。010203040506070801252505001000200040008000010203040506070801252505001000200040008000男性女性10-1920-2930-3940-4950-5455-5960-6465-6970-7475-7980-8485-8990-99(年齢)小さな音大きな音低い音高い音周波数(Hz)低い音高い音周波数(Hz)聴力閾値(dBHL)聞こえチェッカーあなたの聴力は年齢相応?取材・文/竹林 篤実中市 健志技術開発センター R&D室。入社以来、補聴器の設計に関わる。2019年より「キコエプロジェクト」のリーダーとして、日本の難聴者問題解決のための企画立案に携わっている。佐藤 香織技術開発センター 要素技術開発室 第二G。入社以来、医用検査機器担当として聴力検査機器のオージオメータなどの開発に携わる。「聞こえチェッカー」の開発ではソフトウェア設計や実地検証の際の実験組み立てなどを担当した。12

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