RION Techinical Journal Vol.3
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したが、プランクトンに関しては全く未経験。ほとんどゼロの状態からプランクトンについて学んでいくという感覚でしたね」 山岸の行う研究はまさに未来への布石だ。リオンがプランクトンの研究に専任を置くということ自体、社外から見ればユニークな決定だろう。「有害なプランクトンはたとえばアナベナ、シネドラ、フォルミディウムなどがあります。これらのプランクトンを培養し、測定したデータを取得して製品の信頼性を高めていく研究をしていくのが私のミッション。でもこの一年、いろいろなプランクトンを培養しているんですが、その培養がまず難しい。培養の後にはデータを取っていく作業があるんですが、まだまだ長い道のりだと感じています。なにしろこうした仕事を専門的に行っていた先輩も社内にいないので、何をするにしても自分が主体となって進めていかなければいけません。もちろんやりがいも感じていますが、プレッシャーも大きい。本当に悩みながらの毎日ですが、なるべく早い段階で製品開発に有用なデータを集めていきたいですね」 社内にある技術を応用したとはいえ、リオンとしては全く新しい市場に製品を投入したという今回の事例。本プロジェクトの一部始終を知る関本一真は最後にこう語った。「地球上の水のおよそ97.5%が海水です。そして、残りの2.5%が淡水ですが、そのうちの大半は南極や北極の氷雪や、地中のとても深くに存在する地下水で、簡単に取水して利用できるわけではありません。したがって人が取水して利用できる多い水です。このため、通常の微粒子計測器では、配管やセンサー部があっという間に汚染されてしまうため、使い物になりません。こういった問題点を解決するため、従来の微粒子計測器にはなかった、配管を定期的に洗浄する機能を盛り込みました。また、プランクトンなどの粒子の濃度が高過ぎて測定できなくなってしまうことがないよう、原水中の粒子の濃度を測定可能なレベルまで自動的に希釈する装置も開発しました。でも開発当初は失敗の連続でしたね。最初の試作機を某浄水場に設置して数週間後に様子を見に行ったら、配管や計測器内部の試料水タンクにびっしりと藻類が繁殖していて途方にくれたことを今でも思い出します。一方で、浄水場で働く方々の、安心安全な水を家庭に絶え間なく届けるための献身的な仕事ぶりを間近で見て、たくさんの刺激をいただき、私も貢献したいという思いにかられました」プランクトン解析というリオンの新たな研究分野 関本や田中、三宮とは全く異なる方面からプロジェクトに尽力した一人が山岸万純だ。山岸の仕事領域はズバリ、プランクトンの研究。浄水場でのシステム開発と併行し、信頼性の向上に資するべく、今も水中に存在する可能性のある生物研究に勤しむ毎日だ。「社内にはプランクトンにまつわるデータが存在せず、研究によって進めなければということで今、私が専任で行っています。学生の時から細胞の培養はしていま淡水は、地球全体の水の0.02%程度の量と言われています。一方で地球全体では人口が増え続け、飲料水の問題は世界的にも深刻です。そう考えると、水をきれいにする技術や、浄水場の管理を効率化する技術は、とても大きな社会的価値を創出するものだと考えています。私たちの知見や技術、システムがより多くの現場で利用され、人々の暮らしを支援したいという思いは日々、強くなっていますね」山岸 万純微粒子計測器事業部 新規事業推進室。2020年4月に新規事業推進室へ異動して以来、プランクトンの研究に没頭。大学時代から生物研究の分野で研鑽を重ね、リオンにおいても数少ない生物粒子分野の専門スタッフとして活躍。生物障害の原因となる生物浄水処理に有害なプランクトンを検知し、これに対応する必要がある。たとえばフォルミディウムは、異臭(墨汁臭)の原因物質(2-メチルイソボルネオール)をつくりだす。これを浄水処理で除去しなければ水道水ににおいが残ってしまうのだ。シネドラ属(ろ過閉塞障害)フォルミディウム属(異臭味障害)ピコ植物プランクトン(ろ過漏出障害)ミクロキスティス属(凝集沈殿およびろ過漏出障害)5

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