RION Techinical Journal Vol.4
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EPILOGUE-SCIENCE, SCIENCE!山川 雄生技術開発センター 技術資料課。2012年入社。これまで微粒子計測器のセンサー開発従事し、最小可測粒径を小さくする研究プロジェクトに注力した。ΙθΙ0л4m2(1+cos2θ)1-m22+4λ4d6=2愛すべき、悩ましきレイリー 2012年に入社し、今年で10年目。2021年4月から技術資料課に配属になったのですが、それまでは技術開発センターで微粒子計測器を開発していました。専門はセンサー部分の研究開発です。※         ※ 理科や算数は昔から大好きで、小学校の自由研究ではラジオを製作したほど。秋葉原で部品を買ってきて組み立て、電波から生み出される音に感動しました。当時テレビで流行っていた「電流イライラ棒」の小さいバージョンも作ったことがあります。中学の理科の先生が楽しい人で、薬品を混ぜ合わせて二酸化炭素を発生させたり、少量の花火を作ったり。物理より化学が好きで、物質が何から、どのような構造で出来ているか、どんな特徴や性質を持っているかということを知るのが面白かったですね。高校では水泳部と化学部に入り、大学では生命工学を学びました。Scrub Nurse Robotという腹腔鏡下手術支援用ロボットの研究開発をやっていて、僕はその目の部分を担当していました。どうやって手術の状況をロボットに理解させるのか、紫外線や赤外線という目に見えない光を駆使し、ロボットに認識させるということを楽しみながら研究していました。※         ※ 光に関する研究を長くやっていたこともあって、リオンが微粒子計測器を開発していることを知った時は嬉しかったですね。医療機器メーカーに就職したかったのですが、馴染みのある土地に会社があるリオンは音や振動のイメージだったので。面接の時に「パーティクルカウンタの開発に携わりたいです!」と言った就活生は珍しいようです(笑)。 晴れてリオンに入社し、微粒子計測器の開発に携わって以降、ずっと長く付き合っている数式が「レイリー散乱の近似式」。レイリー散乱とは、光の波長より小さな微粒子による光の散乱のことです。空が青く見える理由も夕日が赤く見える理由も、大気を構成している分子によるレイリー散乱の結果であることは有名ですよね。散乱過程でほとんど波長は変化しないので、微粒子計の開発にはこの式を必ず使うんです。 ※         ※ 入社当時、液中微粒子計の最小可測粒径は40 nmでした。その後、30 nmを目指し、さらに20 nm、さらにその先を目指すこととなりました。微粒子計の開発において一番重要なのは初期の設計の際に行うシミュレーション。測りたい粒子の大きさにおいて、十分なシグナルノイズ比を確保できる散乱光を発生させるためにはどういった条件が必要なのか。そのシミュレーションの際にレイリー散乱の近似式を使います。 レイリー散乱の近似式の最もわかりやすい特徴は、散乱光の強度が粒子径の6乗に比例する点です。つまり、粒子径が半分になれば散乱光の強度は1/64になってしまう。40 nmの粒子を測定できるセンサで20 nmを測定しようとすると、散乱光の強度は1/64になるので、単純計算ではセンサーの性能を64倍にしないと計測できないんです。微粒子計の最小可測粒径がなかなか小さくならないのはこの点に起因しています。 リオンの微粒子計が30 nmから20 nmを計測できるようになるのに8年近くかかっていますから、開発には相当長い時間がかかるんです。「なんで3乗じゃなくて6乗なんだ!」と悩ましく思うこともありますが、とりあえずこのレイリー散乱の近似式でシミュレーションすれば正確に計算できるので、今となっては頼もしい存在ですね。※         ※ 光の何が魅力的かというと、これからの未来を切り拓く上で一番可能性があると思うからなんです。光って人間が知覚できる唯一の量子ですよね。量子論は古典力学がそのまま通用しない分野で、これからさらに伸びていく。 個人的には今「メタマテリアル」という物質に注目しているのですが、これは光を含む電磁波に対して、自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質のこと。メタマテリアルは光の屈折率を1未満や負の値にすることができるのですが、それを使うと今までの光にはできなかったことができるようになるんです。たとえば今5Gが普及し始めていますが、この電波は直進性が強くて障害物に弱い。そこでメタマテリアル反射板を使うと電波を迂回させられるんです。ほかにも様々な研究が進んでいるので、考えるだけでワクワクします。未来が楽しみでならないですね。No. 00464倍の努力リオンを支える、理科や数学好きなスタッフたち。この連載では毎回、理数系のスタッフがそれぞれの「理数愛」を語る。第四回は「レイリー散乱の近似式」への愛と執着について。理数好きなもので。リオンスタッフのこだわりコラムレイリー散乱の近似式レイリー散乱とは光の波長に比べて十分小さな微粒子によって発生し、散乱の前後で光の波長がほぼ変化しない散乱を指す。光の散乱強度は上の式によって求めることができる。20取材・文/横田 可奈

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