RION Techinical Journal Vol.5
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EPILOGUE SCIENCE, SCIENCE! 謎めくも美しい元素周期表 私が理学(自然科学)の世界へ引き込まれていったのは、元素周期表の存在が大きいです。私は、子供の頃から少年漫画が好きで、その中でも『鋼の錬金術師』という漫画は何回も読み返すほど大好きでした。この漫画は、魔法のような架空の錬金術が展開されるファンタジックな物語なのですが、主人公や敵が錬金術を使って物質を変形・変換させて武器や防具にして戦います。その錬金術を使用する中で、しばしば元素の説明が出てきます。「人間の身体は炭素や水素などで構成されていて、それぞれ何% あって…」といった実在する元素名も出てきます。当時は、ファンタジーと現実の境目がよく分かっていませんでしたが、その謎めいた元素というものにカッコいいなと憧れを抱いていました。 中学生の理科の授業で、世の中のあらゆる物質が原子で構成されていると習い、そこで元素周期表と出会います。「元素周期表にある原子で世の中のものが構成されているのかー(ワクワク)」と漫画の影響もあり、好奇心を抱きつつ苦手な暗記「すいへーりーべー…」も頑張りました。高校生の化学の授業では、さらに元素周期表の族や周期のグループによって化学的性質の共通点や関係性などを勉強しました。元素の位置関係が頭に入っていれば、大まかな化学反応のメカニズムを直感的に考えることができます。しかしながら、100種類以上もある元素が整然と1枚の表にまとまっていることに対して、なぜ元素周期表はこれほどにも整理されているのだろうと謎が深まっていきました。大学では、自然科学をもっと勉強したいと思い物理学科に進みました。ある時、大学の量子力学の授業で「三次元のシュレディンガー方程式を解いて水素原子モデルを表してみましょう」という課題が出ました。とても難しい課題だったので徹夜で一気に解き進めていきました。気が付くと朝で、解が得られた時にはA4レポート用紙を何十枚もびっしりと数式と文字、図で埋めていて驚きました。 この式にはn、l、mという整数があり、これを量子数と言います。このn( K 殻、L殻、M 殻)、l(軌道角運動量)、m(磁気量子数)をパラメータとして、多電子系のエネルギー準位へと考察を進めていくことで元素の電子配置や軌道の規則性を理解できます。その規則の下で化学的性質の共通点や関係性の原理が理解され、元素周期表の整然さも納得しました。その直後に見た周期表には、「なんて美しいのだろう」と感動しました。 1869年にロシアの化学者であるドミトリ・メンデレーエフが周期律を発見したと言われています。しかし、私はメンデレーエフだけでなく古来の錬金術師と呼ばれた人や哲学者、そして今日の科学者など多くの天才たちが積み上げてきた知の集大成だと考えています。※         ※ 大学院では物性実験研究室で過ごしました。私は磁性と超伝導が共存・競合するユニークな超伝導物質のメカニズムを研究していました。そこでは、高純度な試薬を調合・混合・焼成して超伝導になるセラミックを自分で作製していました。しかし、ねらい通りの性質をもつ物質が作れず、何十回もカット&トライしていました。その試行錯誤の方向性を示す羅針盤となっていたものが元素周期表です。例えば、沸点の低い元素と融点の高い元素を化合させなくてはならないときに、反応させようと温度を上げていってしまうと沸点の低い物質は先に揮発してしまい、融点の高い物質が反応する頃には反応相手は消えています。その場合には、事前に沸点の低い元素を別の元素と化合物や合金状態にしておき、揮発しにくい状態を一時的に形成します。その後に融点の高い元素と化学反応させて所望の組成比になるようにとレシピを構築していきます。このようなテクニックを検討できるのは、元素周期表があるからで、元素周期表は物質設計の羅針盤ともいえる存在です。※         ※ 最近思い耽ることとして、元素周期表にも「周期」という言葉があり、当社の社名の由来にもある「音」も周期性をもつ物理現象ですが、「周期」こそが自然界にある普遍的な「理ことわり」ではないかと考えます。自然界には様々な循環サイクルがあり、私たちもそのサイクルに応じて活動をしています。物事の周期性を調べていき、元素周期表のように体系化していくことで、私たちの未来の羅針盤も見えてくるのではないでしょうか。No. 005元素周期表は知の集大成リオンを支える、理科や数学好きなスタッフたち。この連載では毎回、理数系のスタッフがそれぞれの「理数愛」を語る。第5回は「元素周期表」について。理数好きなもので。リオンスタッフのこだわりコラム元素周期表シュレディンガー方程式の解(水素原子モデル)石川 愼一 技術開発センター R&D室 音響振動センサ開発グループ。2012年入社。音響と振動に関するトランスデューサの研究開発を行っている。これまでに、コードレスオージオメータで使用するイヤホンの開発などを手掛けてきた。20取材・文/横田 可奈

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