RTJ_vol9
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ユニークなシートに、ユニークな機能を加えて「わかりやすく言えば、多孔性圧電シートとは、特殊な加工を施し、たくさんの気泡を有するシートに分極をすることで圧電性を持つことができる、非常に薄い素材です。従来、振動測定用センサには、水晶や強誘電性セラミックスなどが用いられますが、約0.1mmと薄い多孔性圧電シートとは厚みの点で大きく異なります。この多孔性圧電シートを用いた超薄型のセンサが、『シート状圧電センサ』です。今までは設置できなかった車のエンジンルームの隙間など、対象物の形状に合わせて曲面にセンサを設置し、振動を測定することもできるのです。従来の振動計測用圧電素子ではこうはいかないため、これまでの概念を覆す製品だと思いますし、こうしたセンサを利用すれば様々な製品の構造設計にも大きな可能性が拡がるだろうと考えています」 これまでにない素材を使ったマイクロホンの研究を、という目的のもとスタートしたこの開発プロジェクト。多孔性シートは素材としてすでに存在していたものの、これをマイクロホンに応用するのは難しいという判断が一旦、下った。ところが大久保はこの素材に強い興味を抱き続け、なんとか他の分野で応用できないかと思案、研究を独自に続けた。そして試行錯誤を重ねた結果、シートセンサとしての用途に活路を見出し、製品化に向けた取り組みを進めていった。「このような薄型センサを実現できたのは、補聴器で使用されるマイクロホンの開発に従事した経験があったためです。このマイクロホンには小型のセンサを作るための技術が詰まっています。小型のフレキシブル基板、低消費電流のICを扱っていたことが薄型センサの実現への近道となりました」「多孔性シート自身は電荷を保有していません。コロナ放電を起こし、そのときに発生した電荷をこのシートに注入することで、シートの微細な穴一つ一つでプラスとマイナスの分極を形成させます。こうして電荷を閉じ込めた多孔性シートはいわゆるエレクトレットとなり、これを多孔性圧電シートと呼んでいます。このシートでは、外部から伝わる力の変化があると、穴の膨張収縮によって分極の状態が変化し、電荷の移動が生じます。結果として、機械的な変化を電気信号としてセンシングすることができるのです」 そして今後は、この画期的なセンサを社会に実装するタームに入っていくと、大久保は話す。「通常、コンデンサマイクのエレクトレットは人間の手が触れるなどすると、分極された電荷が飛んでいってしまいます。ところが多孔性圧電シートは両面に電極を備えることで電荷が安定していて、手で触れる程度では電荷が飛びません。センサに求められる最も重要なポイントは感度がつねに一定である、ということ。つまり、誤って手で触れても感度が一定であるこのセンサは他にはないアドバンテージですし、材料として組み立てのしやすさや構造への応用が利くという点についても大きな利点だと感じています」 とはいえ、コネクタ部分の薄さを求めていったり、高温での使用時にいかに機能するかを追求したり、改良に向けた課題はまだまだあると大久保は話す。「これからもお客様とともに用途や改良点を追求、研究していきたい。このセンサが今後、どのような産業分野において利用されるようになるのか、私自身、とても楽しみにしています」11アウトプットターミナル35mm20mm厚さ 0.45mm10mm「多孔性シート」の断面イメージ「多孔性シート」の断面は、このように層が重なりあい、その隙間には空気が閉じ込められる。数年前までは単に「紙」としての用途に限定されていた素材だ。コロナ放電による分極電極に超高電圧をかけ、コロナ放電を発生させ、材料にプラスとマイナスの分極を行う。これによって多孔性シートを「エレクトレット」化することで、「多孔性圧電シート」となる。シート状圧電センサの仕様センサ自体の厚みは0.45mmと極めて薄い。一円玉程度のサイズ感、かつ、曲面にも設置できるため、多様な用途が期待できる。また、PETフィルムで外側を覆うことで生体適合性を有している。一方で写真のようにコネクタ部分の厚みには改良が必要で、今後の技術的なブレークスルーに向け奮闘中だ。アンプ内蔵コネクタ接続例(厚さ 3.5mm)センシングエリア: Φ6 mm17mm

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