「プレシアがその後のデジタル補聴器発展の礎となったモデルといえるのは、ハードウエアの観点からみても間違いありません。プレシアのプラットフォームを使って、様々な機種が展開されました。完成度の高い安定したプラットフォームの実現で開発効率が非常に向上したのです」 リオネットプレシアでは「ハウリングキャンセラーの強化」に取り組んでいるのが1つの特徴だ。ハウリングは大きくて不快な音(ピーピー等の音)が鳴り、装用を継続できなくなることもあるため、開発において必ず重視しなければならない要素の1つだ。リオネットプレシアでバージョンアップしたハウリングキャンセラーは、「逆位相方式」と「周波数シフト方式」を組み合わせることによってハウリングを防ぐもので、「AFBCα」と名付けられた。ハウリングが起きないようにコントロールできる数値を表すハウリングマージンが、リオネットロゼⅡでは約15 dBであったが、リオネットプレシアでは約25 dBまで改良されたことにより、聴力レベルが大きい人(より聞こえづらい人)用の補聴器にも対応できるようになり、製品展開の幅が広がった。補聴器の重要課題に正面から取り組んだことが、結果的にリオネットプレシアの汎用性をより高める機能へとつながったのだ。11「逆位相」方式+「周波数シフト」方式逆位相補聴器から出力されて再びマイクに入力した音に対し、逆位相の音によって打ち消しあう。周波数シフト約1000 Hz以上の音を、常に20 Hzシフトして(ずらして)出力することにより、同じ音の増幅が繰り返し行われない。周波数周波数【リオネットプレシアⅡ】(2015年)リオネットプレシアの発売から2年、2015年に発売されたリオネットプレシアⅡは、人気モデルであるリオネットプレシアをさらにバージョンアップ。特に、リオネットロゼで搭載したSSS(Sound Spectrum Shaping)を強化した「SSS Speech+」が重要な役割を果たす。SSSと比べ、250 Hz帯と500 Hz帯を追加したことにより、日本語の母音がすべて聞きやすくなった。また、全帯域での「ピークの強調量」と「ディップの減衰量」の差を強化している。【リオネットシリーズ】(2017年)2017年に発売された最高峰モデル。独自の新たな信号処理ユニット「リオネットエンジン」を搭載し、リオネットプレシアⅡと比べ処理時間が40%も短くなった。その他ハウリングキャンセラー、残響抑制、音声強調、騒音抑制などの機能拡充により、明瞭でより自然な聞こえを実現している。また環境に合わせて、最適な各種デジタルモードを補聴器が自動的に設定する「自動モード切替」も搭載した。AFBCαの仕組み補聴器からピーピー音が鳴る現象をハウリングという。増幅された音がイヤホンから出力され、再びマイクに入り、増幅を繰り返すことで発生する。補聴器はイヤホンとマイクが近い位置にあるため、音量を大きくすると発生しやすい。ハウリングキャンセラー「AFBCα」はハウリングを抑える方式として、「逆位相方式」と「周波数シフト方式」を同時に採用している。逆位相方式とは多くのメーカーが使用している方式で、消したい信号の波型に対して反対向きの波型を合わせることで軽減させる方式。「周波数シフト方式」は、ハウリングが発生するポイント周波数帯域をずらして、ハウリングを低減する方法である。2つの方式を同時採用したことにより、速やかで効果的にハウリングを抑えることができるように。特に、ベント(通気穴)を大きく開けることにより、音のこもり感、ひびき感を軽減するオープンフィッティングや、利得が高い時、口を動かした時、電話をする時などに効果を発揮し、ユーザーの負担を軽減することにもつながった。日本の補聴器メーカーとしての意地 2015年に発売されたリオネットプレシアⅡは、「SSS Speech+」という革新的な新技術搭載とともにリオネットプレシアをバージョンアップさせたモデルである。「SSS Speech+」は、リオネットロゼで登場した「SSS」を強化したもので、日本語が聞きやすくなるという画期的な機能をもたらした。「日本語には、あ・い・う・え・お、という5つの母音がありますが、それぞれの周波数を分析すると、F0からF5まで6つのフォルマント(あるサウンドの周波数スペクトルのうち、基音の音高に関係なく常に同じ周波数帯に現れるピークのこと)が異なる波形を描いており、私たちはその差異によってどの母音なのか判別しています。SSSでは一部のフォルマントが処理できる範囲から漏れており、ユーザーにはやや聞き取りづらい母音がありました。SSS Speech+では、処理できる周波数が125 ㎐~5000 ㎐まで拡大したことにより、すべての母音のフォルマントをカバーすることができ、日本語の母音がより鮮明に聞こえるようになりました」(山田) 大学病院との共同研究を重ねて開発された「SSS Speech+」は、結果としてリオンの技術開発力とデジタル補聴器における知見の高さを広くアピールするものとなったのだ。「デジタル化によって、補聴器はお客様の多種多様な要望に応えられるようになりました。人それぞれ“心地よい聞こえ方”は違いますし、シーンによって求める聞こえも異なります。多彩な機能を盛り込むことができるようになり、ユーザーの選択肢がどんどん広がっていきます」と大澤が語るように、2015年以降、リオンのデジタル補聴器は加速度的に進化していくこととなるが、その過程はまた改めてお伝えする。+=
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