6 後にこれは、リオンの特許技術として認可されることとなる仕組みである。2016年頃に完成したこの新技術を、水上はタイミングよく取り入れ、センサ部に液体を送り込む前に、深紫外線を照射する機能を加え、下図のようなシステムが出来上がった。「リオンの装置は検出感度がいい」 いつしか様々な製薬企業から、そうした評価をもらえるようにまでなっていた。 2019年春、リオンは微粒子計測器事業部に新規事業推進課を立ち上げた。そこでどの分野に注力するかを話し合った結果、製薬の分野は難しいだろうという結論になった。最大のハードルとなっていたのは、検査データに改ざんがないことなどを証明するデータインテグリティ=「DI対応」だ。それを一から作り上げるには、さらなる予算と期間が必要だった。結局、それまでにも実績を上げていた浄水の分野に特化していく方針に決まった。「しかし、2015年からずっと学会や委員会での活動をしていた私の中では、十分にやっていけるだろう、という感触もあったので、製薬分野を諦めることはできませんでした」 その年の夏。水上は営業の社員とともに、製薬企業に預けていた生物粒子計数器のデモ器を回収しながら、今後は製薬向けの事業を縮小することを伝えて回っていた。業界屈指の大手製薬企業から帰る電車の中で、営業の社員と話し合っているうち、水上に一つのアイデアが浮かんだ。「あの装置と組み合わせれば、製薬分野でも使ってもらえる製品ができるのでは…」あの装置とは、医薬分野のデータインテグリティに準拠した他社製のデータロガーであった。この装置を使えば、暗号化されたバイナリ形式データでの管理や電子署名、監査証跡など、製薬業界が求めるデータインテグリティに対応することができる。製薬業界向けに「DI対応」と一体化の製品イメージが確立した瞬間であった。 折悪しくコロナ禍によって出勤が制限された中、水上は既存の機体やオシロスコープ、データロガーなど一切の機器を自宅に持ち帰り、手作業で組み合わせたり検証したりする作業を続けた。小学3年生の息子のために用意していた部屋は、水上の作業部屋と化したという。 2020年春から新規事業推進課改め新規事業推進室の営業に配属された鈴木もまた、製薬業界からの撤退という方針に対し、残念な思いを抱いていた一人だ。同じ“きれいな水”を必要とする半導体製造の世界に比べても、製薬は専門性の高い分野だ。それまで、微粒子計測器など他の製品で製薬業界を担当してきたという自負が、鈴木にはあった。 そんな時、既存の自社製品に他社の製品を組み合わせるという水上のアイデアを聞かされた鈴木は驚いた。「これは新規事業推進室だからこそ出てきた発想だ。既存の製品しか知らなかった自分には、こんな突発的なアイデアは計数結果表示部生物粒子計数器(センサ部)試料流量制御部深紫外線照射部生物粒子計数システム当初の計測システムは、それぞれのユニットが別体となっており、生物粒子計数器「XL-10B」に深紫外線照射装置を加えて、さらに試料流量制御部と計数結果を表示するパソコンを加えた構成で成り立つ。測定メイン画面データトレンド画面膜法WFIのモニタリングシステム図注射用水の生成法として広く用いられる蒸留法に対し、膜法は2017年にEP(欧州薬局方)が認可。これ以降、エネルギー消費量が蒸留法に比べ大幅に削減されることなどから注目されている。一方で膜が破損した場合や膜上で微生物が増殖した場合の早期検出が課題。図は膜法で注射用水を生成した際に「XL-M4B」でモニタリングした際のシステム図。数値変動をリアルタイムに把握できるため、異常発生時に即座にアクションをとることができる。センサステータス画面原水精製水製造設備導入WFI製造設備(UF膜)廃液XL-M4BWFI供給設備撤退の方向性が決まる中、見出された新たな活路「ここで落としたらもう先はない」新たに着任した営業担当の覚悟
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