海外では、建設作業現場でのモニタリングに使われるケースも多いことを萩原は知った。国内の場合は、法規制や基準に基づき、現場で10分間ほど計測して平均値をとるといったハンディ性能を活かした使われ方が多くされてきた一方で、ヨーロッパでは騒音計を現場に常設し、逐次変化する24時間の騒音データを記録し続け、オンラインでデータを見るシステムの構築が多くなっていたのだ。 リオンの既存の騒音計でもそうした使用方法に対応することはできたが、やがて欧州の多くの競合メーカーが、モニタリングに特化した機種を次々に販売。そこで萩原は、モニタリングシステムに組み込みやすい「つながる」機能を強化した製品の開発を本社に提案した。 その相談相手となったのが、音響振動計測器開発課の風間亮介だ。「つながりやすい機種という要望があり、Wi-FiやSIMを内蔵するかどうかの検討もさることながら、つながりやすさ以外にも多くの要望がある中で、皆が納得のいくベストな仕様を決めるのに苦労しました」 リオンの騒音計は、研究者はもとより企業や行政機関など、幅広い顧客に使われている。国内での販売も両立させる場合、その全員にとって使いやすいものでなくてはならない。モニタリング専用器として機能を特化する方向に寄せるほど、ある顧客にとっては便利になる一方で、他の顧客が不便をこうむってしまわないよう議論が重ねられた。その結果、新たな機種にはLANケーブルを差し込む端子が設けられた。これにより、無線と有線の両方の接続が可能となり、通信機器との連携やシステム構築のしやすさが向上するだけではなく、音を測定する上で重要となる高速かつ安定した通信を実現できる。3普通騒音計「NL-43」精密騒音計「NL-53」精密騒音計(低周波音測定機能付)「NL-63」「NL-53」シリーズ3.5インチタッチパネル付きカラー液晶で、大きく見やすい画面。直感的で分かりやすいユーザーインターフェースを備え、使いやすさをさらに追求した。言語は日本語、英語のほかドイツ語、中国語など7カ国語からセレクト可能。防塵・防水保護等級はIP54(マイクロホン部を除く)で、防雨型ウインドスクリーンなどのオプションも充実。最新規格や環境騒音測定方法に対応した機能も搭載。最大4条件の同時測定が可能で、作業時間を大きく短縮する。「つながる」機能の強化にフォーカスした騒音計開発 補聴器や微粒子計測器と並び、音響・振動計測器はリオンの基幹となる製品だ。中でも騒音計の歴史は古く、1955年に小型騒音計「N-1101」を発売。1974年には「NA-09」で日本初となる普通騒音計計量器の型式承認を取得するなど、常に最先端を走り続けてきた。 海外においてもその評価は高く、オランダにあるリオンの欧州駐在員事務所に2015年から5年間赴任していた萩原良和は当時、次のような感想を抱いたという。「行く先々で弊社製品の品質が高く評価されていることに驚きました。特に、測定が中断されることなく、長時間安定して稼働し続ける点を彼らは挙げていました」 ハンディタイプとして開発されたリオンの騒音計だが、ヨーロッパを中心とした騒音計開発は、長年にわたり、リオンの中核事業のひとつであり続けてきた。一方で、現在の世界の騒音計マーケットにおいて更なるプレゼンスを示そうとする時、求められる機能は「多様な機器とつながる」だった。この開発思想のもと、誕生した騒音計「NL-53」シリーズ。開発プロジェクトの背景を紹介していく。測定業務の可能性を拡げる「NL-53」シリーズ開発の背景
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