RION-JPN-vol12
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今回のテーマ国分寺とアート リオンから歩いて5分ほどの場所に、兒嶋画廊はある。住宅街の中で、トタンに覆われた個性的な建物が金属光沢を放っていた。中に入ると、ほかのギャラリーにはない住居のような空気を感じる。 オーナーの兒嶋俊郎さんが国分寺に画廊を構えたのは2014年のこと。1979年に青山で画廊を始めてから、銀座、六本木と拠点を移してきた俊郎さんだが、高級店ばかりが立ち並ぶ場所で画廊を営むことに、しっくりこなくなっていったそうだ。「都心は住む場所というより非日常の場所。もっと人の生活にもつながるような環境で画廊をやりたい」と思い、様々な場所を検討した末、六本木からの移転先として選んだのが、実家のある国分寺だった。ここでは、地域の人と結びついた展覧会やイベントなどを開催する機会にも恵まれ、故郷の土地柄に感謝することも多いと言う。 今、兒嶋画廊があるこの場所は、俊郎さんの祖父にあたる洋画家・児島善三郎の住居兼アトリエの跡地だ。善三郎もまた自身の目指す「西洋のものまねではない日本的な油絵」を描くために、明確な意図をもって制作場所を選んでいた。俊郎さんは次のように話す。「国分寺に来る前のアトリエでは、庭などをモチーフに、比較的狭い画角の絵を描いていました。ですが、絵画でより大きな空間を表現するために国分寺に移ってきたようです。善三郎が目指す絵を描くためには、誇張すべきところとそうでないところのメリハリ、色彩を活用して遠近感を作り出す技術、それら表現の間合いを見切る感覚を、段階的に磨いていく必要があったのです。それらを培うため、山あり谷ありと、地形にリズムがある国分寺を選んだのでしょう。この場所での制作が結果として、後に描いたさらにスケールの大きな作品につながる、重要な役割を果たしました」 俊郎さんにお気に入りの作品を尋ねたところ、一つを選べないと言いながらも、1939年風」を挙げてくれた。「これは、に描かれた「東この場所からJR中央線の線路の方を向いて描かれたものです。自然の瞬間的な表情を捉えているところが善三郎の大きな魅力です」 「東風」にも描かれているが、善三郎は野川の両側に広がる田んぼを好んで描いていた。「自然だけど原野ではなく、人の営みがある。自然と人が共生する空間。善三郎が国分寺を選んだ理由は、そんなところにもあると思います」と俊郎さんは語る。 画家の祖父と画商の孫、二人はそれぞれ異なる時代で国分寺を選んだ。自然や人の生活は長い時間の中でその様子を変えてきたが、それでもなお引き継がれる、アートと通ずる魅力が国分寺にはあるのだろう。アトリエ周辺の風景を多く描いた善三郎さんは、同じ場所でも時間帯や天候、季節によって様々な表情を見せる中で、移り変わる一瞬の風景を多彩な色彩で表現しようと試みたそうです。制作過程や時代背景など絵にまつわる話を俊郎さんから聞くことで、最初に見た時と絵の印象が異なる不思議な感覚を覚えました。また、自分の描いた絵に感動して涙するほど感受性が豊かだった逸話を聞くと、写真の厳格な姿とは異なる新たな一面が見えてきます。想像力を掻き立てる絵を通して、国分寺の昔の風景に触れることができました。(リオンテクニカルジャーナルスタッフ 岡部 雄紀)こちOUR FAVORITE TOWN, KOKUBUNJI リオンのスタッフがナビゲート 19取材後記東京都の重心に位置する「国分寺」、リオンが生まれ育ったこの地は、いったいどんな場所なのか、街の旬な人や場所をリオン社員が訪れ、その魅力をお伝えするコーナー。今回はユニークな建物と所蔵品を目当てに海外から足を運ぶ人もいる兒嶋画廊を訪問。オーナーである兒嶋俊郎さんの祖父は洋画家・児島善三郎、祖父の代からまなざしを向けてきた国分寺の風景を探る。丘の上APT/兒嶋画廊■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■児島善三郎 (1893-1962)■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■兒嶋俊郎丘の上APT/株式会社兒嶋画廊 代表取締役■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■コーディネーター/棚橋 早苗画家の祖父と画商の孫、2人が惹かれた国分寺の土地柄

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