RION-JPN-vol12
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工学基礎演習シリーズ120書籍は「知」や「発想」の源泉。リオンを率いる岩橋清勝社長はどのような本を読んでいるのでしょう。本連載では、リオンの岩橋社長が自らの本棚からとっておきの一冊をご紹介していきます。 もう45年以上の前のこと。大学時代、研究室に「フーリエ解析」と題する書籍がありました。フーリエ解析とは、複雑な波形や信号(時間領域)を単純な正弦波(周波数領域)の集まりとして表現する手法です。コンピュータの進化と共にデジタル処理の「高速フーリエ変換(FFT)」が開発され、その応用範囲は飛躍的に拡大しました。この手法は、音声や画像処理、通信、物理学などで幅広く使われ、私たちの生活にも深く関わっています。 そんな「フーリエ解析」にまつわる書籍は、大学で工学部電子工学科に所属していた私にとって、勉学の羅針盤となるべき書籍の一つだったのです。とはいえお恥ずかしながら、私は毎日、真面目に勉強するタイプではなかったので、この書籍を手にしたのは、クリアしなければならない試験が目前に迫っていたという理由から。ですから、目前の試験が終わればこの書籍と私とのつながりは直接的にはなくなるはずでした。 そして私は大学卒業後、リオンへ入社。2年目の秋に技術部門へ異動し、業務として最初に関わることとなったのが、FFT方式の「2チャンネルリアルタイム周波数分析器SA–73」という装置の開発でした。FFT方式の分析器は世界でも数社しか発売していない時代。この先駆的な商品開発に求められる必須知識がまさにフーリエ解析の書籍に書かれている理論だったのです。そこで私は、あらためて学ばねばならないという思いから、押し入れの中にある学生時代の教科書をひっくり返しました。そして押し入れの奥にしまわれていた「フーリエ解析」の書籍を発見。改めてその書籍に教えを乞うことになったのです。目の前の業務に必要な知識ですから、今度こそはしっかり学ぼうと週末の時間はこの書籍と向き合い続けました。自然と書籍の中身が頭にこびりつけばいいなと思い、眠る時も枕の下に書籍を置いたものです。すると不思議なもので、朝起きた時にはフーリエ解析への理解がより深まったような気がしました。内容を頭に入れたいという願いが不思議な作用をもたらしたのかもしれません。なにしろ幅広く業務と深く関わる理論ですから、その後もこの「フーリエ解析」はたびたびページをめくる、私にとって重要な書籍となっていきました。 そんな回想をしていると、このような教訓がいつの間にか、脳裏に刻まれていることに気づきます。1つめは、学生時代の勉強は決して無駄にならないということ。2つめは、枕の下に書籍を置く行為には一定の効果があるかもしれないということ。そして3つめは、一生付き合う書籍というのが実際にあるものだなあということです。感謝の気持ちを込めつつ、これからもこの書籍のページをめくっていこうと思っています。岩橋 清勝代表取締役社長。1979年入社。騒音、振動計測に使用されるデジタル技術を用いた計測器、分析器の開発に携わる。音響振動の技術部門長、環境機器事業部長、技術開発センター長などを歴任し、2022年4月に代表取締役社長に就任。H.P. スウ・著、佐藤 平八・訳(森北出版)CEO's Bookshelf第3回「フーリエ解析」 社長の本棚。

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