RION-JPN-vol13
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3 64年。今や地球の周囲には大小様々な無数の人工衛星が飛び回り、その中には有人の人工衛星も存在する。そんな人工衛星の代表格が、地上から約400km上空に建設された巨大な有人実験施設、国際宇宙ステーション(ISS)だ。アメリカ、ロシア、欧州各国を始め、日本も含めた15ヶ国が協力して1998年に宇宙での建設が始まり、2011年に完成した。重力の影響を受けにくい特殊な環境だからこそできる科学実験や研究に取り組み、宇宙開発や地球の自然研究における発展に貢献している。また、NASA(アメリカ航空宇宙局)が主導する宇宙計画の中には月の軌道を周回する有人拠点「ゲートウェイ」も予定されており、その先には月面基地、さらには火星基地も視野に入れた計画が進行中だ。ンで取り付けが開始された「きぼう」日本実験棟。これを機に様々な研究が進められている。その一つが、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)宇宙科学研究所 山崎丘教授らによる「宇宙船内水環境微生物のオンボードモニタリング法の開発(Micro Monitor)」である。「2000年代半ばにJAXA宇宙環境利用科学委員会宇宙微生物学研究班ワーキンググループが立ち上がりました。その中でNASAやロシアが行っているように、宇宙船内環境の微生物を、日本はモニターしなくていいのか、という議論が始まりました。そこで、これから日本が実験棟を打ち上げるにあたり、私たちも打ち上げ直後からきちんと微生物をモニタリングしましょうと提言したのです。その後、環境モニタリング研究の一環として、この研究がはじまりました」 ISSに滞在する宇宙飛行士にとって、飲料水として安全な水は欠かせない。宇宙ステーション内において水はとても貴重であり、尿はもちろん汗やエアコンの結露水さえも、ろ過し循環して再利用しているほどだ。 しかし、宇宙ステーション内の水質を検査するためには、サンプルを採取して地球にある研究施設で調べる方法しかない。そのため、山崎教授らのチームは「軌道上で宇宙飛行士がその場で検査できる方法を開発する必要がある」という議論を始めた。地球上の低い軌道で飛んでいるからこそ、一旦、地上に降ろすという方法もとれるが、月軌道人工衛星や月面基地、火星基地まで見据えると現実的ではない。加えて、現状の調査方法でさえ結果が出るには数日を要する。数週間前の水の結果が分かるだけで、今現在、宇宙飛行士たちが飲んでいる水がどのようなものかは分からないのだ。 山崎教授とリオンとの出会いは2019年の夏だった。リオンの技術のひとつに、水中の微生物の数を計測する生物粒子計数技術がある。従来、水中にいる細菌を調べるには、サンプルを採り、シャーレで数日間かけて細菌を培養し、出現したコロニーを、目視で計測する「培養法」が使われてきたが、リオンの技術は、水中に存在する生物粒子を直接計数することができ、すぐに結果が分かるという大きな利点がある。このような理由から、きれいな水が欠かせない製薬や食品産業を中心に、リオンの生物粒子計数技術が使われている。この技術が、本研究プロジェクトの中核を担うことになっていった。© JAXA※「USOS(米国軌道セグメント)」ISSにある2つのセグメントのうちの1つ。米国航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙機関(CSA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって構築、運用されている。もう1つは、ロシア軌道セグメント (ROS)。© JAXA/NASA山崎 丘JAXA 宇宙科学研究所 学際科学研究系 教授。「Micro Monitor」研究代表者。2005年 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所主任研究員、2013年 帝京大学医療共通教育研究センター講師、2023年 同准教授、2024年4月から再びJAXA に所属。「宇宙船内水環境微生物のオンボードモニタリング法の開発(Micro Monitor)」ISSの飲料水に含まれる微生物を、軌道上でリアルタイムに検出するモニタリング法の開発。ISS内の飲料水は培養法による定期的な検査を行っている。しかし、飲料水サンプルを地上に運び検査するため、検出に時間がかかる。そこで本研究では、微生物の量と変化を計数できる生物粒子計数技術を用いて、宇宙船内の飲料水に適用可能なリアルタイムかつ高精度な微生物管理法を提案しようとするもの。この研究成果は、長期有人宇宙探査での新たな飲料水管理技術として応用されることが期待されている。ら水のサンプルを採集する若田光一宇宙飛行士。ステーション内宇宙では、特有の環境を利用して広範な分野にわたる研究や実験が行われている。写真はISSのUSOS※モジュール内にある飲料水ディスペンサーか15カ国が共同で建設した国際宇宙ステーション 人類が初めて宇宙に飛び立ってから「安心して飲める水」は地上でも宇宙においても必須 2008年から、国際宇宙ステーショ

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