15 耳栓を入れた際の聞こえ方の数値が分かったとしても、その次の段階で何をしてよいのか分からない。そこで現在、新市場研究開発グループが進めているのは、耳栓を正しく使うための教育から、最適な耳栓の選び方、そしてその効果を数値で確認できる一連の手順がすべて含まれたアプリを用意することだ。これにより、音の専門知識がなくても、耳栓の適切な装着によって騒音障害を防ぐことができる。 このアプリではまず、騒音障害が発生する要因と耳栓を使用する重要性を動画で説明し、その意義について理解してもらうことから始まる。次に、正しい耳栓の装着方法を紹介。そして、耳栓を正しく装着した状態で効果を測定し、職場の騒音レベルに適した耳栓であるかの合否が判定される。不合格の場合は改善アドバイスに沿って別の耳栓で再度計測をするか、装着方法を再訓練することができる。「現時点では試作なので、まだウェブサイトへのリンクは繋がっていませんが、クリックすることで耳栓のメーカーや、販売しているオンラインショップにアクセスする仕組みも考えています」(武田) 現時点ですでに、3メーカー 53 種類もの耳栓のカタログデータを取り込んでいるという。そしてこのシステムは現在、自動車部品製造メーカーや化学薬品メーカーなど数社で試してもらい、現状把握と課題解決のためのカットアンドトライを行っている最中だ。フィットテストと騒音ばく露計、騒音計を組み合わせたデータを社内で共有し、高度な労働衛生管理の実現を目指すという、中市が掲げる「聴覚保護プログラム」という大きな枠組みの中で、収益化が期待される事業として進められている。今後は騒音測定結果と聴力検査結果を一元管理できるシステムと連携し、騒音障害防止対策を網羅的に行えるリスクマネジメントシステムを検討する予定だ。中市は「製造業だけに絞るのではなく、騒音が発生する全ての作業所をターゲットにしたいと考えています」と、大きな目標を掲げている。アプリがインストールされたパソコンと測定装置イヤホンと応答ボタン作業者側の装置 この研究を後押しするかのように、令和5年、厚生労働省は新たに「騒音障害防止のためのガイドライン」(令和5年基発 0420 第 2 号)を発表。実に 31 年ぶりの改訂だった。これまで耳栓は「とりあえず装着すればよい」というルールだったが、新たな指標ではより具体化された。耳栓は遮音性能が高すぎず低すぎないもの、つまり、付けることで聞こえる音が 70 〜 80 dB になるような耳栓を選ぶということになったのだ。これにより、騒音環境の中で従業員に働いてもらう業界は対策を求められることとなった。 耳栓にはさまざまな種類があるが、商品パッケージにSNR 値や NRR 値という遮音性能が表示されており、その数値が大きいほど性能が高いことを示している。NRR 値 は 米 国、SNR 値 はEU を中 心に、日本でも用いられている規 格だが、どちらの 単 位もdBで 表す。つまり 110 dB の騒音の中で、聞こえる音を 80 dB 以下にするためには、110-30=80 で、30 という数値の耳栓をつければよいということになる。 海外でもこうしたテストは行われているが、その多くは音の専門家が行っている。一方、日本の場合は人事や総務といった社員から騒音障害防止対策の管理者が選任されるため、音に関する知識はないことがほとんどだ。よって、測定者側の装置2021年 4月から開発が始動。現状は既存のオージーメータにパソコン内のアプリを組み合わせ、従業員に対する教育、適した耳栓の選定、耳栓装着時の効果の確認を行う。最終的な商品として、予防、測定、対策、教育を組み合わせたシステムを目指す。試験運用を重ね開発が続けられている。武田 葵研究開発センター 研究開発室 新市場 研 究 開 発 グル ープ。2021年入社。騒音性難聴予防に関する研究のメンバーとして現場の調査や研究に尽力。顧客インタビューや労働衛生に関する研究に関しては、社内でも屈指の知識量を誇る。「騒音障害防止ナビ」開発の中心人物。騒音障害を予防するために必要な過程を、全て網羅中市 健志研究開発センター 研究開発室 新市場 研 究 開 発 グル ープ。1995年入社。騒音ばく露計「NB-14」の開発に携わる。騒音性難聴予防に関する研究のリーダーとして、労働衛生業界におけるリオンの認知度を向上させ、「NB-14」の有用性を周知するために貢 献している。『騒音障害防止ナビ』(仮称)
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