3 会社。電子ピアノやシンセサイザー、ギター関連製品、デジタル録音機器、アンプなどの電子楽器の分野で世界的な知名度を誇り、プロからアマチュアまで幅広いミュージシャンから愛され続ける、日本発の楽器メーカーだ。 ローランドの製品企画グループリーダーである豊野英樹氏には、10 年前から温めていた新製品の構想があった。それは、静かなドラムだ。 ローランドが最初に電子ドラムを開発したのは 1985 年のこと。初期モデルはゴム製の打面により、長時間演奏による手首への負担と打撃音の大きさが課題であった。そこで 1997 年にはメッシュ打面を採用した「 V-Drums TD-10 」を発売し、打撃音を大幅に軽減したことで、電子ドラムは自宅練習用の静かな楽器として人気を得ていくことになる。だが、それでも演奏の際、住環境によっては近隣への音の影響を完全に防ぐことができていなかった。 そこで豊野氏が開発しようと考えたのが、木造のアパートや夜間の演奏でも周囲がうるさいと感じないほど、静粛性の高いドラムだった。「家族の迷惑にならずに練習できれば、家族の理解を得られる。理解を得られれば練習時間が増え、応援もしてもらえる。そこでモチベーションも上がり、もっと練習したくなるというプラスのサイクルが生まれるに違いない。このドラムの開発は、私のライフワークになると感じました」にどれくらい静かなのかを正しい数値で把握し、販売店やお客様に説明する際にも裏付けがないと信頼性がありません。何より開発側が、静かになったと確信が持てるよう、騒音計による測定を電子ドラムに活かすというアイデアが、自然に生まれました」 そして豊野氏が相談を持ちかけたのがリオンだった。ローランドは以前からリオンの騒音計を使用していたからだ。「騒音計は、設備の保守・管理を担当する部署で保有していたのですが、極めて静かなドラムを開発する上で、どのような測定方法で、どのような指標をもとに活用すればよいかという知見が全くありませんでした。ですので、ご相談することから始めたのですが、同時にこの開発を通じて社内に騒音測定などの知識を蓄積することも意味があると考えました。そこで、当社向けのセミナーを依頼することにしたのです」 菊地 哲環境機器事業部 営業部 計測器販売課。2010年入社。計測器販売課と営業 技 術 課を行き来し、2021年より新規事業推進室に在籍。以来、音に関する技 術 相談 対応を担当し、2025年 4月より、現在の部署に異動。ローランド株式会社の「VQD106」開発にあたり、リオン側の技術相談窓口として対応。精密騒音計「 NL-63 」低周波音測定機能が付いたリオンの精密騒音計。本プロジェクトで活躍した「NL-62A」の後 継 機。1 Hz ~ 20 kHz までの広帯域を測定可能。JIS・IEC・ANSI など主要規格(クラス1)に適合。オプションの「1/3オクターブ実時間分析プログラム(NX-63RT)」をインストールすれば、周波数分析が可能となり、分析結果を物的苦情に関する参照値、および心身に係る苦情に関する参照値などに当てはめて評価することができる。ローランド 電子ドラム「 VQD106 」静粛性への工夫「VQD106」のスネアやタムにはメッシュ・ヘッドの下部に衝撃を吸収するため、ハニカム構造のソフトラバーを搭載。パッド底面の樹脂部分もハニカム形状に開口された多孔構造で、叩いた時に発生する空気の振動を分散させ、騒音をさらに減少させる。キックは 2層のメッシュ・ヘッドの下に、異なる機能を持った4層のクッションを組み合 わせた構 造を採 用。さらに、床への振動や騒音の伝達を軽減するフローティング構 造を採用。パッドを支える 4つのラバーフットが安定性を付与しつつ、さらなる振動低減を実現した。静粛性を裏付ける正確なデータを取得するために 「静粛ドラムとして販売するには、実際ローランドが新たに挑む「静かなドラム」の開発 静岡県浜松市にある、ローランド株式
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