12 4 この依頼に対し、リオン側の技術担当として動いたのが、当時新規事業推進室に在籍していた菊地哲である。かねてよりお客様の課題解決の重要性を強く認識し、自身がドラマーでもある菊地は、自分がやるべき仕事が来たと感じたと言う。「機器メーカーである当社としては製品を販売することも大切ですが、お客様の困りごとに対応し、お客様と一緒になって課題を解決していくことが本来の目的です。ですから当社が培った測定技術や結果分析のノウハウを最大限に活かしたセミナーをアレンジしようと燃えました」 防音・防振に必要な基礎知識として音や振動の性質、床衝撃音や固有振動数の測定方法、固体伝搬音や空気伝搬音の対策方法など。とりわけローランドが求める住宅における騒音、振動の測定や結果分析にフォーカスし、リオンのチームがオンラインで約 4 時間のセミナーを開催。数十人の開発者に向けてレクチャーを行った。 このセミナーがローランドから高評価を得た約 3カ月後、さらに具体的な技術相談に乗ってほしいという依頼を受けたリオン。こうして 2022 年 6 月、静粛性の高い電子ドラムの開発プロジェクトに、いよいよリオンが参画することになっていった。菊地はこのプロジェクトのスタート時についてこう回想する。「多様なご相談を受けたのですが、主なテーマのひとつが、集合住宅の 2 階で電子ドラムを演奏した時、その騒音や振動が階下へどのように伝わってしまうのかということでした。そこで測定のポイントとなるのが、電子ドラムと計測器の位置関係です。電子ドラムに対し、どの程度の距離や方向で測定するのが適切な結果分析につながるのか。騒音計を所有していただいていても、適切に測定する方法は対象物や環境によって異なります。ですから実際の現場に足を運び、測定の位置を定めることに神経を使いました」静粛でありながら、ドラム特有の手応えも感じられる製品に 今回の新製品開発における課題が静 粛 性にあったのは 間 違いない。ただ、叩いた際に気持ちがいいと感じる演奏性と耐久性も考慮しなければ、電子ドラムとしての価値を向上させることにはならない。「台所のスポンジを叩けば静かですが、それは楽器ではありません。静粛性を追求しつつ、楽器としての演奏性も最高のものを作ること。これをミッションとして開発を始めました」 そう語るのはドラマーとしてアマチュアバンドで活動を続ける、ローランド機構開発部の國光洋平氏だ。國光氏は2021 年に中途入社、自宅に電子ドラムを持ち、振動が下に伝わらないような設備を自作して練習していたという人物だ。ある時、以前から憧れていたローランドへの転職を決意。面接の際「静かなドラムを作りたい」と熱弁したところ、入社初日に配属されたのが、豊野氏らが研究開発をしているチームだった。即戦力として國光氏も加わり、開発者たちによる試行錯誤の日々が始まっていった。國光氏はこう続ける。「菊地さんに当社の測定現場へ来ていた 静粛性の高いシンバル「 CYQ-12 」「VQD106」のシンバルにも、メッシュ下のハニカム構 造ラバーと底 面の多 孔 構 造を搭載。打 面とシンバル 後 部の接点は、軟 質ラバーを使ったフローティング構造にすることで、さらに静粛性を強化した。 実環境での騒音測定 ロ ーランドが 所 有 する 軽 量 鉄 骨アパートにて、上下 階 を 使 用して測 定。「VQD106」と、自宅 利用でよく導入される機 種である「TD-07KV」を 2階に設置して、①同じ室内と②階下、両方の騒音レベルを測定し数値を比較した。その結果、「VQD106」は階下での騒音を約 75% 低減。極めて静粛性に優れることが確認された。サウンドホールでの騒音比較ローランド社内にあるサウンドホール内に、一般的な木造住宅の2階の床を再現した「特設床下測定ボックス」を設置。ボックスの上に試作品を置き、ボックス内に騒音計を設置して、騒音レベルの測定を繰り返した。データと確証を得た後、実際の住宅でも測定。実際の数値は階下への騒音が「鉛筆の執筆音」や「ひそひそ話」に相当するレベルの静けさであることを確認した。メッシュ×軟質ラバー複合打面シンバル後部フローティング構造多孔構造フレーム
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