5 豊野 英樹 ローランド株式会社 Drums & Percussion事業本部 製品企画グループリーダー。1988年入社。電子ピアノの開発に従事した後、2011年から電 子ドラムの開発に従事。一時期、マレーシアでの工場立ち上げに携わった後、ドラムの開発に復帰。「VQD106」の開発を統括する。國光 洋平ローランド 株 式 会 社 機 構 開 発 部。2021年にローランド株式会社へ転職し、電 子ドラムの 機 構 設 計 に 従 事。「VQD106」の開発プロジェクトでは、「NEQ-K/H」の設計を担当しながら、電子楽器演奏時の騒音・振動測定方法の構築を主導した。ローランド株式会社1972年創業。スタジオ、ライブ向けのプロ用から家庭用まで、多様な楽器ジャンルの製品を展開する総合電子楽器メーカー。主にシンセサイザー、デジタルピアノ、電子ドラム、ミキサー、DJ 機器、ギターアンプなどの製品を開発・製造・販売する。世界に先駆けた多くの技術や製品を生み出し、楽器市場へ新たな価値を提案してきた歴史を誇り、プロミュージシャンたちから絶大な信頼を得る。ローランド 「 V-Drums Quiet Design VQD106 」ローランドの電子ドラムシリーズ「V-Drums」史上、最も静かなドラムキットとして、2024年 10月に発売開始。演奏性や表現力を損なうことなく圧倒的な静粛性を追求し、騒音に配慮した全く新しい電子ドラム。静粛性や制振性を高めるため、打面やスタンドなどすべてを新たに設計し、演奏時に発 生する騒 音を大幅に低減。打撃による振 動を吸収し空気や床に伝わって騒音となるのを防ぎ、従来のV-Drums キットと比較して騒音を約 75%低減した。パッドをスティックで叩いても、その音量は 60dB 程度と、日常的に行われる会話と同じくらいに留まる。だけたのは大きかったですね。おかげで、アカデミックな知識と知見からアドバイスを受けられましたし、騒音計を使う現場のプロセスに並走していただけたことは、今後の製品開発にも大いに役立つと感じています」り、素材に開ける孔の位置や数を変えたりと、試行錯誤の日々が続いた。新しい方法を試しては騒音計で測り、また別のやり方を試しては測る、その繰り返しだ。「周囲への音の影響を少しでも小さくしていく。例えば 1 dB の差をどんどん追い込んでいく作業だったのですが、確かに騒音計の測定結果から、しっかりと差が見えてくるんです。信頼できる機器だからこそ我々もそれを頼りに、じゃあこの方法を採用しようと道筋を決めていくことができました」(國光氏) ローランド本社工場の静かなホールと同時に、実際の使用が想定される環境での騒音を測るため、軽量鉄骨2 階建て、築 30 年の社宅を使った測定も並行して進められた。 約2年の歳月を経て、電子ドラムは徐々に静粛性を増していった。社宅での測定にあたっては、雨が降っても数値に影響してしまう。家の外で近所の人が立ち話をしていれば終わるのを待ち、軒先にツバメが巣を作った際には巣立つのを待った。セミの声、車、飛行機、ヘリコプター、やがてエアコンの音さえも邪魔になるからと、夏場は汗だくになりながら作業を進めたという。いつしか、それほど小さな音でさえ、測定に影響が出るほどの静粛性が実現できていたということだ。そして、5000 回を優に超える測定回数を経て、2024 年 10 月、打感を損なわず静粛性の高い新型電子ドラム「 VQD106 」が発売となった。のドラマー数人を、あの社宅に招き電子ドラムを叩いてもらうイベントを行った。彼らは一様にその静けさに驚いた。すぐに購入したというその内の1人は、自らのブログに「深夜も練習し放題!」と綴った。現在、「 VQD106 」は生産が追いつかないほどの人気を博しているとのことだ。 構想から 10 年近くの歳月を経て発売となった今、豊野氏は言う。「自分たちが作ったものが世界に残る。この電子ドラム開発は、自分が生きていてよかった、楽しかったなと思える最大の挑戦でした」 その開発に少なからず貢献したリオンの騒音計と測定技術。周囲への騒音、振動をより低減することが、ローランド製品の価値向上につながることから、リオンとの関係性がさらに深まっていくことも予想される。画期的な電子ドラム「 VQD106 」開発プロジェクトは、ローランドにとっても、リオンにとっても、多くの収穫をもたらしたと言えるだろう。「 1 dB の差をどんどん追い込んでいく作業」が結実 スティックで叩く打面の素材を変えた届いたユーザーのリアルな声「深夜も練習し放題!」 ローランドでは発売後、アマチュア
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