RION-JPN-vol15
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3 ※「AI NR」は東京都立大学 小野順貴(おの のぶたか)教授との共同研究成果が一部含まれます。佐藤 僚研究開発センター 研究開発室 AI 応用研究開発グループ。2020年入社。補聴器の信号処理およびファームウェア開発を経て、リオネット2では AI NR 機能を担当。現在はディープニューラルネットワークを用いた補聴処理の研究開発に従事。リオネット2リオネット初となる AI 搭 載モデル。デジタル機能の向上によりクリアで自然な「聞こえ」を実現し、電池交換が不要な充電式補聴器。左は、耳あな型オーダーメイド補聴器の「HI-C7」。一人ひとりの耳の形や聴力に合わせて作られ、耳にぴったりと収まり自然な装用感が得られる。右は、耳かけ型補聴器の「HB-A8」。軽 度から重度までの難聴に対応する。本体は4色から選べる。湯野 悠希医療機器事業部 開発部 ソフトウェア開発課。2018年入社。補聴器のファームウェアや信号処 理の研究開発を担当。リオネット2では、主にハウリングキャンセラー機能の研究開発に従事した。現在は、補聴器の使い勝手を高める周辺機能の開発に取り組む。山田 新医療機器事業部 開発部 補聴器開発課。2013年入社。補聴器の電気設計から製品開発のマネジメントまで幅広く携わり、高出力補聴器やリオネットシリーズ、リオネット2の開発を担当。現在は新たな補聴器の開発に取り組んでいる。 リオンが、原音に忠実な音作りを目指し、新たなデジタル信号処理技術を採用したリオネットシリーズを開発、発売したのは 2017 年のこと。リオネット補聴器の最高峰モデルと位置付けられた。 一方、ほぼ同じ時期からリオンは研究も進めていた。それは、すぐに製品化することを見据えたものではなく、要素技術のひとつとして進めていたAI 技術を使った雑音抑制機能の研究である。 人が生活する環境には、さまざまな雑音が存在する。リオネットシリーズには雑音を抑制する機能として、NR(ノイズリダクション)と呼ばれる機能が搭載されているが、これはエアコンや換気扇など、一定時間続くような定常雑音を抑制するものだ。しかし、食器がぶつかった、あるいはレジ袋がガサガサしたなど、瞬時に鳴る音はあまり抑制できないという課題があった。AI の技術でこれをどうにかできないだろうか。その可能性を、リオンの開発チームは模索していた。 補聴器には「 DSP 」という、音声処理専用のプロセッサが組み込まれている。補聴器のマイクが拾った音をデジタル信号に変換して聴きやすい音に処理をする、いわば補聴器の頭脳の部分だ。 2020 年に入ると、次期製品(リオネット2 )で DSP の性能が向上し、AI の計算を効率的に実行できるようになる見通しがついた。そこで、かねてより要素技術として検討していたAI 技術を、製品に搭載することも可能になるという見立てが現実味を帯び始めた。こうして開発チームは、あらゆる雑音を抑制し人の声だけを耳に届けることを目指して「 AI NR※( AIを活用した雑 音 抑 制 機能)」の開発に取り組むことになっていく。 その開発メンバーの一人が、佐藤僚だ。あらゆる雑音に対応すべく、環境機器事業部の多様な録音データを活用。さまざまな音環境で高い性能が得られるよう試行錯誤を繰り返し、 AI に雑音を抑制させるシミュレーションを何度も行った。ただ、AI による計算を補聴器でリアルタイムに実行できるかどうかは、分からなかった。「当初は AI による計算がシミュレーション通りにDSPで行えるかどうかの見通しが立っておらず、不安に感じていました。新たな DSPを使って自分たちが作ったAI の計算がリアルタイムに行えると確認できた時は、これはいけるかもしれないという期待感で満たされましたね」 佐藤が手ごたえをつかんだこの時を境に、研究には勢いが増していく。 従来の NR は一定時間続く定常雑音を抑制する技術だが、AI NR はそれと根本的に異なり、「人の声かそれ以外の音か」を判別し、声ではない成分のみを抑制する。そのために必要な音の分析は 1 分間で約 2 万 5000 回、それも周波数ごとに細かく処理をさせることで実現を目指した。 他社に対して大きなアドバンテージとなったのはやはり、膨大な人の声や雑音のデータをリオンが保有していることだ。そのデータをもとに、さまざまな状況をシミュレーションし、開発は進められた。補聴器に AI を搭載するに当たっての 2 つの課題蓄積されていた膨大な「騒音」のデータAI 技術を使った雑音抑制機能の研究

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