ニュースリリース
選手同士の会話もダイレクトに聞こえる臨場感あふれるスポーツ放送の可能性
東北大学と共同で、MEMSエレクトレットマイクロホンを応用した 64チャネル球状マイクロホンアレイシステムの開発に成功
2016年09月15日
リオンは、東北大学電気通信研究所先端音情報システム研究室(以下東北大学)の坂本修一准教授、トレビーニョホルヘ助教、鈴木陽一教授らの研究グループと共同で、当社が開発した次世代の高性能超小型マイクロホン「MEMSエレクトレットマイクロホン」(※1)を応用し、音空間の情報を極めてリアルに集音可能な実用レベルの64チャネル球状マイクロホンアレイシステムの開発に成功しました。
さらに、この球状マイクロホンアレイシステムを複数台用い、音源(目的音)と集音点(マイクロホン)の間に妨害音がある状況でも、妨害音の影響を大幅に減少させ、目的音を抽出する技術も開発しました。これにより、例えば、スポーツ競技の場で、周囲の雑音や歓声などの影響を大幅に低減した集音が可能になり、選手の会話やプレー音を鮮明にダイレクトに捉えるなど、国際的なスポーツ大会のテレビ放送などにおいて、これまでにない臨場感あふれる実況放送が期待できます。
なお、本件は、一般社団法人日本音響学会の2016年秋季研究発表会(9月14日から16日、富山大学にて開催)にて発表いたします。さらに本件は東北大学電気通信研究所の産学共同マッチングファンドの助成を受けて実施しています。
64チャネル球状マイクロホンアレイシステムの概要
今回開発に成功した64チャネル球状マイクロホンアレイシステムは、人の頭に相当する直径17cmの球状であり、外形寸法が3.6mm×2.8mm×1.3mmと非常に小型で高性能なMEMSエレクトレットマイクロホンを64個搭載しています。
球状マイクロホンアレイは音空間をリアルに集音するために近年注目され始めており、様々な用途が期待されています。特に人の頭の大きさの多チャネル球状マイクロホンアレイは、集音点における3次元音空間情報を人間の感ずる通りのリアルさで集音できることが東北大学坂本准教授らの研究により明らかになっています。しかし、人の頭の大きさに多数配置できる小型で高性能なマイクロホンがなかったことが大きな課題となっており、当社が開発したMEMSエレクトレットマイクロホンを用いることにより、実用レベルの64チャネル球状マイクロホンアレイシステムが実現できました。
アレイオブアレイズ技術による新たな集音技術の概要
東北大学と当社は、マイクロホンアレイシステムを複数台用いた集音手法であるアレイオブアレイズ(array of arrays)技術(※2)の高度化研究に共同で取り組んでいます。この研究において、64チャネル球状マイクロホンアレイシステムを複数台用い、音源と集音点の間に妨害音がある状況でも妨害音のエネルギーを1/10程度以下に減少させて、目的音を抽出する技術を開発しました。これにより従来のように、目的音を抽出する際に指向性の高いマイクロホンをターゲット(音源)に向け続ける必要が無く、固定した複数台の球状マイクロホンアレイにより、妨害音がある状況でも求める音源のみをダイレクトに鮮明に抽出することが可能となります。
今後、国内で開催予定のスポーツ大会のテレビ放送の際には、競技場に複数台の球状マイクロホンアレイを固定して設置することで、注目する選手たちの会話、プレー音、ボールを蹴る・打つなどの音を周りの騒音や歓声などの影響を大幅に削減し、場面に応じて自由に捉えるなどの、これまでにない臨場感の高い実況放送への可能性が期待できます。
さらに、スポーツ大会、コンサート、記念式典などの記録映像において、本システムを採用することにより、全方位で録音した全ての音の中から、必要な音を自由に抽出することが可能となります。例えば、本システムを採用したスポーツ大会の記録映像では、タブレットなどで視聴者が注目したい場面へズームインすると、その場面の音声を鮮明に聞くことができたり、自分の見たいシーンを自由にズームアップして切り出し、好きなときに何度もその場面の映像と音声を個別に見ることができるなどの次世代のオンデマンド提供への発展も期待できます。
※1:MEMSエレクトレットマイクロホン
MEMSエレクトレットマイクロホンは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用し、従来のエレクトレットマイクロホン(ECM)に比べ、熱や湿度に強い耐環境性、超小型、高性能、低コスト、低ノイズで均一な性能を持つ高品質製品が大量生産できるなどの特長を備え、次世代のマイクロホンとして注目を集めています。当社の主力製品である補聴器や各種計測器をはじめ、放送用、プロオーディオ用などへの利用にとどまらず、グリーンイノベーションに対しては、自動車分野、環境騒音監視、風力発電、水力ダムなどの常時監視システムへ、ライフイノベーションに対しては身体内の音源検知(呼吸、心音、血流など)への応用へと用途が広がる、大きな可能性を持つものです。
現在、当社では、(一財)NHKエンジニアリングシステム、(一財)小林理学研究所の協力を得ながら、量産化に向けた研究を進めています。また、その一部は文部科学省のナノテクノロジープラットフォームの支援を受けて、東北大学ナノテク融合技術支援センターで実施しています。
※2:アレイオブアレイズ(array of arrays)技術
複数のセンサをある規則をもって空間上に配置したものをアレイと呼んでいます。このセンサアレイでは、それぞれセンサの信号を同期加算や遅延加算などを行うことで特定方向に感度が高いシステムを作ることができます。さらにこのセンサアレイシステムを複数台用いることで方向選択性能を向上させるなどの特徴を持たせることができ、これをアレイオブアレイズ技術と呼びます。
今回は、MEMSエレクトレットマイクロホンをセンサとして配置した64チャネル球状マイクロホンアレイシステムを本技術に適用することで、多くの音源が存在する音環境において、空間内の特定の場所の音を抜き出すためにその妨害となる音を減少させ、目的の音を浮かびあがらせることが可能となります。

左:100円玉の上においたMEMSエレクトレットマイクロホン 3.6mm(幅)×2.8mm(高さ)×1.3mm(厚み)
右:64チャネル球状マイクロホンアレイシステム

アレイオブアレイズ(array of arrays)技術のイメージ
本件につきましては、9月13日に東北大学とリオンの共同で、宮城県政記者会、文部科学記者会、科学記者会にて広報発表しております。なお、発表資料は、東北大学のWEBサイトをご参照ください。
URL:http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/09/press20160913-02.html